徹底解説!今の学校教育の問題点とは!?(後半)

先生のためのウェブサイト【EDUPEDIA】とのコラボ第二弾!
前回に引き続き、教育問題を歴史的・社会科学的視点から研究する、教育社会学者の広田照幸先生へのインタビューをお届けします!
専門性のある教育はいつから始める?
子どもたちにとって本当に意味のある学びとは?
知識と実践の両視点からわかりやすくお答えいただきました!
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Q8 早い教育段階から職業に応じた専門的な教育を実施し、公教育に職業的な意味を持たせるべき、という考え方についてはどのようにお考えですか。

将来の職業分化に応じて早い教育段階から教育制度が分化していくことは「複線型学校制度」といいますが、私はその方向への改革に批判的です。
というのも、一つには、機会の不平等の面で気になります。早い段階での教育の分化は、平等な分化であるということはあり得ません。職業というのは、必ず社会階層の上下関係と密接な関連があります。したがって、職業に応じた教育への早い段階での分化は、社会的不平等の再生産を促進することになりかねません。高校を卒業して直接就職する生徒の割合は2割ほどにすぎなくなっていますし、「就職のために専門知を」といっても、大した専門性は身につかないし、高卒就職者の5割ぐらいは3年以内に転職しています。むしろ、社会に出た後も人はさまざまな学習の機会をもち、学び続ける必要がある社会になっています。みんな学び続ける社会になっているのですね。だから、より高度な学習をするための確実な基礎として、高校まではできるかぎり普通教育が重視されるべきだと思っています。
もう一つには、早くから職業教育に打ち込ませることは、いわば自分自身を単なる「部品」にしてしまうという側面があります。「特定の仕事をやれる自分」というのが自分の存在意義のすべてになってしまう。しかし公教育には、もっと別の側面があって、民主主義社会における成員の育成、いわば社会を動かす一員、市民としての能力を身に着ける教育とか、人類が積み上げてきた文化を学び、それを自分の人生の中で生かしていくといった側面があるわけですが、教育の職業的意義を強調する議論は、そうした教育の役割が軽視されてしまうことになります。
確かに職業的な教育を自分が受けることは自分の利益になるので、生徒たちの学習意欲が喚起される面はあります。しかし、そんな教育ばかりになっていくと、民主主義の空洞化は止まらないし、社会全体の文化は豊かなものになりません。
大学・短大や専門学校などへの進学率が高くなった時代だからこそ、高校まではあまり早期に生徒を分化させた教育をやらないことが、長期的には良い社会を作ることになると、私は考えています。このあたりことは、『教育は何をなすべきか――能力・職業・市民』(岩波書店)で書きました。
Q9 生徒の学習意欲を高める上で教師が気をつけるべき点はどのようなことですか。
まず生徒が実現可能な範囲に目標を設定すること。生徒の目線やレベルに合わせた内容や方法を準備しないといけません。そして、人間が共通に学ぶべきものを学ばせている、という意識を持ち、その思いを生徒に伝えていけばよいと思っています。大きな目標と結びついた小さな目標を追求する学習をやっている、というふうな見通しを生徒に持たせることが必要だろうということです。

私が大学で授業をするときには、これから学ぶものがどういう意義を持つのかを、できるだけあらかじめ伝えるようにしています。目の前の些末に見えるものがどういう高い目標とつながっているかを理解してもらう、ということです。自律した能動的学習者というのは、目標に向けた自己制御が自分でできることが必要ですから、教師が考える目標を、学習する側に共有してもらう必要があるのです。「意義はいずれわかる」といった不親切な教え方では、生徒の側で能動的な学習をやろうにも、その方向性も筋道もわからないままになってしまいます。
高校で学ぶ物理や化学、世界史や漢文など、「なんのために今日の授業でこれを学ぶのか」を生徒が理解できるように、教師の人たちにはきちんと説明してみてほしいと思います。本当に生徒に伝わるように説明ができれば、生徒の学習意欲はずいぶんちがったものになるでしょう。
ついでに言うと、現在の教員養成課程においては、どのように教えるかということばかりが重視されすぎている、という現状があります。そのため、生徒に学習させる内容がもつ意義について、教師自身が深く考えたこともない、ということすら起きています。「入試に出る」とか「定期試験で出す」とかといった理由ではなく、何をなぜ生徒に学ばせる必要があるのか、といったことを教師がきちんと考える機会が少ないことが非常に問題であると考えています。
Q10 教育のICT化が進んでいくと考えられますが、その影響はどのようなものになると考えられるでしょうか
もともと、ノートと鉛筆が登場した時も、教育の方法は大きく変化しました(佐藤秀夫『ノートや鉛筆が学校を変えた』平凡社)。テクノロジーは教育や学習の方法を確実に変化させます。
ICT教材や教具は学校に一層普及していくでしょうし、それによって教育や学習はきっと大きく変わっていくと思います。しかし、ICTには根本的な限界がある。個々の生徒の状況を見ながら、次に何をしたらよいのか/どのようにしたらよいのかのコントロールや調整が、ICT教材を与えただけではきっとうまくいかないだろうということです。もっというと、学習意欲のない学習者に対してICTは無力だと思います。だから、生徒の学習意欲を喚起しつつ学習過程を制御するという教師の役割はなくなりません。個々の学習者の状況を見ながら、生徒に応じた教材、学習を提供することが、教員にとって重要な役割になっていくでしょう。
Q11学校が果たす役割として、政治的役割、つまり民主政治に参加する主体を育成するという面が軽視されてきたのは、なぜなのでしょう。

「民主主義社会の担い手の育成」という教育目標の達成が、昔の政治情勢によって封印されてきたからなんです。安保闘争、学園闘争の時代に、十分な判断力や社会的経験をもたない中高生を政治から遠ざけよう、という考え方が主流になっていきました。その過程で、子どもたちを政治にふれさせるのはよくない、というイデオロギーが確立されていきます。
しかし、選挙権が18歳に引き下げられたことをきっかけに、このイデオロギーが転換されつつあります。このあたりの話も『教育は何をなすべきか』で論じておきました。
社会問題が複雑化し、思想や利害の対立の軸も複数化している現代においては、適切な政治的判断ができる賢い市民がもっと増えることが必要になってきています。このような市民を育成することも、教育の重要な役割です。グローバルにも国内的にも解決に向けて進んでいかないといけない課題はたくさんあります。みんなで手を携えて課題の解決に取り組んでいくために、教育が果たすべき役割はとても大きいと思います。
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いかがでしたか?
漠然と捉えられがちな山積みの教育課題は具体的にどのようなものがあるのか、
学校・先生が何を大切にしたら良いのか、
今回の広田先生のインタビューからそれぞれ、共感や思うことがあったのではないでしょうか。
教育への思いは人それぞれ、あなたも自分が考える「学校の役割」を見つけてみませんか。
ぜひ、フォーラムへお越しください。
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広田照幸 Teruyuki Hirota
専門は、教育社会学、教育史、社会史。
『教育は何をなすべきか――能力・職業・市民』岩波書店、2015年
『教育問題はなぜまちがって語られるのか?―「わかったつもり」からの脱却』
日本図書センター、2010年(伊藤茂樹との共著)
をはじめ様々な書籍を出版している。
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